代表コラム:世界最先端をゆく日本の地方都市

By 2010/04/15 No tags Permalink

こんにちは。

ピアズ・マネジメントの中林です。

今回は『「課題先進国」日本で生きる』の三回目です。

日本でいま起きている人口構造の変化は、戦争や疫病などの一時的インパクトを除くと、人類が初めて経験するほどのスピードと言われています。この「超高速の人口構造変化」が、日本に、中でも地域経済にどのような影響を及ぼすか考えてみます。

地域経済は主に、域内に閉じた経済活動と域外との取引が中心になる経済活動の二つに分けられます。

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経済産業省「地域経済研究会報告書」より作成

まず域内経済活動で最も大きな比重を占めるのは個人消費です。

高齢人口の比率が高まれば、当然高齢者層の消費行動が経済に与える影響が大きくなります。

高齢者の消費支出は現役世代とパターンが異なるだけでなく、新しく家を建てたり子供の教育に支出する機会が減り、消費支出の総額も減少します。

一部に活発な消費活動を行う高齢者層が出現していますが、それをもって個人消費全体の減少分を補うには規模が小さすぎます。このまま少子化のトレンドが変わらない限り、個人消費は長期的に先細りになることは避けられないでしょう。

事実として、最近のニュースから拾えるだけでも、マルハニチロ、キッコーマン、キューピー、メグミルク、日本たばこ産業、キリンなど典型的な内需型産業である食品業界において国内工場閉鎖が続いています。この流れは食品業界にとどまらず、太平洋セメント、三菱マテリアル、レンゴー、ヤマハ発動機、ホンダ、積水ハウスなど多くの業界で日本市場の縮小を見越した生産能力の削減が行われています。

これは同時に、その地域での雇用が失われるということも意味しますので、心情的にはなんとか踏みとどまってほしいと願いたいところですが、企業経営の立場からすると競争に負けないためには致し方ないということになってしまいます。

このように人口構造の急激な変化は、徐々にGDPの6割を占める個人消費に影響を及ぼし始めており、これからの10年でさらに日本の産業構造を根底から揺さぶる出来事が数多く顕在化すると思われます。

続いて、域内・域外両方にまたがるものとして、労働力の確保という問題があります。

生産年齢人口は働き手の母数となりますので、その急速な減少は公的部門含め全産業における労働力不足、技能・ノウハウの継承困難という事態を引き起こします。世界同時不況やデフレ経済のもとで、現下の労働力不足は見えにくくなっていますが、新しく社会に出る人の数より引退する人の数が圧倒的に多いというトレンドはこれからずっと、最低でも数十年は続きますので、近い将来必ず顕在化すると見てよいでしょう。

労働力不足に対応するために、女性と高齢者の労働力率を向上させてインパクトを緩和する、衰退産業から成長産業へ労働力をシフトさせる、生産拠点をさらに国外移転させる、一人当たりの労働生産性を高める、外国人労働者を受け入れる、などの方策が検討されています。しかしいずれの案を取るにしても社会や人々の生活に与える影響は大きく、変化にともなう痛みは避けられないと思います。

また、地域社会の舵取り役である地方自治体にとっては、経済縮小にともなう困難にいかに対処するかが悩みのタネになるでしょう。

定年退職後は給与所得から年金に比重が移り年収が減るため、必然的に納税額が少なくなります。それに反比例するように病気や怪我、身体の衰えが目立つようになり医療や介護を利用する機会が増えます。年々増加している医療費は平成19年度についに34兆円となりましたが、近い将来50兆円を超えると予測されています。

さらに、後日このコラムでもう一度触れたいと思いますが、日本には「社会インフラの危機」(高度経済成長期に整備された社会インフラが2010年以降一斉に更新期を迎え、維持・改修に莫大な費用負担が発生する)という別の大きな問題が迫ってきているため、今と同じような安全で便利な社会を維持するための公共事業費を捻出しなければならず、社会保障費だけに手厚く予算配分することは許されません。もちろん産業振興への投資も教育への投資も全部必要です。

ちなみに昨年度の税収は37兆3960億円でした。税収が過去最も大きかったのは1990-91年、ちょうど日本経済がバブル景気に沸いていた頃ですが、それでも60兆円です。

収入は減り支出は増え莫大な借金を抱えながらみな老いていくという状況は国も自治体も同じで、多少の差はあるとしてもすべての地域において、今とは全く違うモノサシで地方自治の在り方を考えねばならなくなると思います。

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同上図

地域経済の特性からみて、あともう一点、人口流動も計算に入れる必要があります。

魅力ある街づくりによって流入人口を増やすことはプラスの要因となりますが、これは総人口が減少する中で全ての自治体が試みていることなので、現実的に考ると一握りの自治体以外は残念ながらみな効果なしに終わると思われます。

そうなると人口構造の偏りによる影響は東京や一部地方都市を除いてさらに加速度を増すことになります。いや、もっと正確に言うなら、大都市の都心部においても高齢化率が40%を超える地区が出始めているので、大都市だから関係ないとはもはや言えない状況になっています。

現時点で財政破綻の懸念がある自治体は21市町村とされていますが、東京都含むすべての自治体は「夕張市の悲劇」をわが身に置き換えて、持続可能な地方自治とはなにか長期戦略を練りなおす必要があるのではないでしょうか。

以上のように「超高速の人口構造変化」は、働き手の減少、消費の減少、企業の生産能力縮小、税収の減少、社会保障費の増大などの現象を引き起こし、それらが複雑に絡み合いながら負のスパイラルとなって経済を縮小させていくことになります。世界主要国の中でも日本経済の回復力が弱く、突出してデフレ経済の圧力

ピアズ・マネジメントの動画チャンネル始動

By 2010/03/15 No tags Permalink

こんにちは。ピアズ・マネジメントの中林です。
私たちはセールス&マーケティングに関するコンサルティング業務だけでなく、研修やセミナーなども精力的に行っています。

このようなコンサルティングのノウハウなどは、あまり公開するものではないのでしょうが、ご存知の通り(?)普通のことはやらない私たちですので、すべて公開することにしました。

Youtube でチャンネルを作成しましたので、ぜひご覧下さい。
http://www.youtube.com/PeersManagement

また今後もどんどん動画を追加していきますので、興味がございましたらチャンネル登録もお願いします。

代表コラム: 問題は「減少」より「偏り」

By 2010/02/10 No tags Permalink

こんにちは。

ピアズ・マネジメントの中林です。

前回に引き続き『「課題先進国」日本で生きる』の二回目です。

人口問題は「人口減少」の文脈で語られることが多いのですが、これは問題の影響を過小評価し、自分とは関係のない話か、あるいは影響が出たとしてもずっと将来のことだという思い違いを生む原因になっています。

なぜならば、前回の図の通り総人口の推移を山に例えると、頂点である2006年を真ん中とした30年間の人口増減比率は3%未満に過ぎず、人口がさほど増えてきたわけでもなく、さほど減るわけでもないという非常になだらかな高原状態が続くため、あたかも平坦な道を歩んでいるかのように思い込んでしまうからです。

この感覚にとらわれることなく現実を直視すれば、我々が最初に直面する問題が見えてきます。それは人口が減ることではなく、人口が偏ることによって起こされる問題です。経済に与える影響は、ミクロ・マクロ両面において、総人口減少よりまず先に人口構造の変化を考えなければなりません。

少し背筋が寒くなるのは、このインパクトは50年後になってやってくるわけではなく、この10年の内に巨大な津波としてやってくることです。

すでに老齢人口比率世界一である日本は、これからの10年間で生産年齢人口がさらに760万人減少し、老齢人口が650万人増加します(下図)。しかもこの流れはその後も止まることはありません。老齢人口が3,600万人前後で高止まりするのに対して、生産年齢人口は10年毎に700万人ずつ減少し、2035年には生産年齢人口は6,300万人、老齢人口は3,700万人になると推計されています。

ちなみに私が生まれた1969年においては生産年齢人口7,200万人と老齢人口730万人であったことを考えると、現役世代の負担が著しく増えることは容易に想像がつきます。日本は人類史上はじめて平時における「超高速の人口構造変化」を体験することになります。

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国立社会保障・人口問題研究所「都道府県別将来推計人口」より作成

次回は、「地域経済疲弊の加速」です。

ピアズ・マネジメントの考える世界

By 2010/02/02 No tags Permalink

こんにちは。

ピアズ・マネジメントの中林です。

実験好きな二人が会社を起こして5ヶ月ほど経ちました。 順調とは行かないまでも徐々にクライアントも増え、各方面から大変多くの(厳密にはポツポツと)お問い合わせをいただくようになりました。

この場をお借りして、まずは御礼を申し上げます。

「ところでどんなことをやっている会社ですか?」というご質問をたびたびいただいております。

その件につきましての回答はひとまずヨコに置いて、まずはわれわれの活動の根底にある世界観(ちょっと大袈裟ですが)を披露させていただきたいと思います。

急がば回れではないですが、世界観は経営哲学に通じるものですし、そこに共鳴していただける「何か」があれば、コンサルテーションというわかったようなわからないような業務内容をお伝えするよりも、われわれのことを理解していいただく近道になるのではないかと考えています。

またこれが、確固たる世界観が形成されている(いわゆる大人の眼を持っている)皆さまご自身において、あらためて「この世界とは何ぞや」と問い直すきっかけになれば、これほどうれしいことはありません。

では前置きはこのあたりにして、本題に入っていこうと思います

「課題先進国」日本で生きる

予言できる未来

我々は何が起きてもおかしくない時代、激動の社会を生きています。一寸先は闇ともいえますが、しかし一つだけ予言できる未来として経営学者ドラッカーは人口問題を挙げました。

人口問題には少子化、高齢化、人口減少などいくつかの側面があります。歴史をふりかえれば、日本を含め多くの国が人口減少を乗り越えてきましたし、また現代においてはフランスやスウェーデンのように少子化を克服した例もあります。

しかし、現代の日本が抱える人口問題はこれまでとは若干違う様相を呈しています。その特異性とは、大きい人口を抱える国家全体が急速に老いることであり、規模とスピードにおいて有史以来のことだといわれています。日本が「課題先進国」である所以はここにあります。

日本では人口統計上、15-64歳を生産年齢人口、65歳以上を老齢人口と区別しています。実はこの経済活動の中核を担う生産年齢人口が1997年をピークに急速に減少しています。

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国立社会保障・人口問題研究所
「都道府県別将来推計人口」より作成

変化は驚くべきスピードで起こっています。たとえば、1985年から2009年の24年間で総人口は5.3%増と微増にとどまっているのに対して、ほぼ同等の期間(1985-2010年)で、老齢人口比率は10%から23%へと急激なカーブを描いて上昇し、人口の構成比率はガラリと変わってしまいました。

人口問題は影響が顕在化するのに時間がかかるため同時代の人間には認識しにくいのですが、日本は長いすべり台を勢いよく滑り落ち出してからすでに10年以上経っていることになります。人口ボーナスを謳歌できた時代は10年以上前に終わっており、これから数十年は人口オーナス(負債)の時代を生きていくと腹をくくったほうがよさそうです。

次回は、『問題は「減少」より「偏り」』です。