星の王子さまで有名なフランスの作家サン・テグジュペリは、一方では実際に陸軍飛行連隊や民間航空郵便の飛行士をやっていたそうな。その時の経験は『夜間飛行』『南方郵便機』という小説として描かれています。
薄っぺらい本なんだけども、誠に内容は重厚で、登場人物たちの生き様が、見事に、そしてリアルに描かれてます。その中でも特に夜間航空郵便事業のファウンダーであり、支配人であるリヴィエールはとにかくサイコーで、彼のカッコ良さに、僕は何度かシビれてしまった。
パイロットやその家族、エンジニアたちと常に距離を取り、決して歩み寄ることをせず、冷酷と厳格を貫くその姿勢は、鬼かそれとも機械か、と思えるリヴィエールだけど、実は誰よりも夜間航空郵便事業に情熱を燃やしていたのも、リヴィエールその人なんですよね。
情熱と冷徹
この二つはリーダーに必要な根源的な資質と言えるかもしれない。決して小説の中だけの話ではなく、困難な事業の遂行、危機的な状況の中での決断、部下たちの鼓舞、このようなものは現実の世界でもとても大切なものだ。
”規則というのは宗教で言えば儀式のようなもので、馬鹿げたことのようだが人間を鍛えてくれる” P34
リヴィエールは暴風で出発が遅れたパイロットも、本当に不手際で出発が遅れたパイロットも一様に罰するという規則を徹底した。これは一見不公平に見えるかもしれない。しかし、これによって彼は飛行場に緊張を吹き込んだ。部下たちは悪天候による休憩を喜ぶのではなく、恥じるようになり、雲や霧が裂けたわずかな時間をも最大限に活かす努力を、率先して始めるようになったのである。
リヴィエールあらばこそ、全長1万5千キロメートルの全線に、郵便に対する信念がすべてを超えて行き渡った。
”あの連中はみな幸福だ。なぜかというに、彼らは自分たちのしていることを愛しているから。彼らがそれを愛するのは、僕が厳格だからだ” P35
上司が厳格であるが故に、部下は自分の仕事を愛することができる。見事なリーダーシップだと思わないだろうか。まさにリーダーとはかくあるべしだ。
”苦悩を引きずっていく強い生活に向かって彼らを押しやらなければいけないのだ。これが意義のある生活だ” P35
小説『夜間飛行』は、航空工学、航空技術、航空機製造技術、その他もろもろ、すなわち現代ではアビエーション(Aviation)と呼ばれる航空学がまだまだ未発達だった20世紀初頭に、自分たちが取り組んでいる仕事は世の中を変える。世界の発展を支える、そういうプライドを持って命懸けで未知の領域へ飛び込んでいった男達のドラマだ。ゾクゾクする。
いまどき、リヴィエールのように理不尽な上司がいたら、逆にあっという間にクビになってしまうだろう。だけど、リヴィエールは決して部下が嫌いで彼らを処罰をしたわけではない。
彼が心底嫌ったのは過失と事故、すなわち郵便の遅延や航空機の事故である。もし過失を許し、処罰をしなければ、やがて部下たちの気は緩み、結果的に大きな事故へとつながっていく。その大事故を防ぐためならば、彼は喜んで悪役になり、嫌われ者になった。
リーダーは部下から嫌われることを恐れてはならない。手紙を待つ人々に早く確実に、安全に郵便を届けること、これが航空郵便事業の使命なのだから。
”不運は常に内在する。とかく、人が自分の弱さを感じる瞬間がありがちのものだが、するとたちまちそれにつけ込んでおびただしい過誤がめまぐるしいほど押し寄せてくる” P93
…続く
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