日本といえば当然日本刀です。刀です。強さと美しさを兼ね備えた完璧な武器です。ってみなさんよく知ってますよね。日本刀と言うのはまことに謎の武器で、平安時代にはすでにたたら吹きによる製鉄法が完成し、硬度の違う鋼を複数組み合わせる作刀の技術も完成していたようですが、基本的に口伝であり、文書として残っていないので、どうやって完成に至ったのか技術の変遷すらよくわかっていないそうです。
そんな日本刀が何と言っても凄いのは、硬すぎると折れる、柔らかすぎると曲がる、という鉄の特性に反して「硬くて、しなやかで、良く切れる」という三要素が見事に融合しているという点でしょう。
そのカラクリは芯金と呼ばれる刀の中心にある柔らかい鋼と、芯金を両側から包む側金(がわかね)という硬い鋼で構成されていることにあります。しかも芯金はさらに心金(しんがね)、棟金(むなかね)、刃金(はのかね)という3つの鋼から作られていて、心金(中心)は柔らかく、棟金(峰)は硬く、刃金は鋭く、という異なる特性を持っているって言うんだから徹底してます。それぞれ別個に鍛えられた、この4種類、計5つの鋼を詰め込んでまとめて鍛えることで、硬さとしなやかさを手に入れるわけです。
シンプルの究極にある日本刀は、実際には極めて複雑な構成と、複雑な工程、気の遠くなるような鍛錬を経てはじめて完成に至るわけです。
硬く、しなやかに
これは組織作りにおいても同じことが言えるのではないでしょうか。融通が利かない硬いだけの組織、みんながてんでバラバラでまとまっていない組織、いずれにしてもあまり良くないっすよね。このような組織は「単一振り子型」と言って、景気や社会の風潮、流行に影響を受けて、堅くなったり、柔らかくなったりする組織です。わかりやすい例で言えば、2005年、個人情報保護法の施行に合わせて、硬直化する組織が日本中に続出しましたが、あれはまさに振り子が突然「自律分散型」から「中央集権型」に振れたと言えるのではないでしょうか。
組織の運営が会社の業績や市場の動向に合わせて極端に振れるのは無駄なエネルギーを消費するし、社員も疲弊することになります。前回ご紹介したフェアプロセスを実現するためには、一定の権限が現場に移譲され、一定の自治権が認められていることが重要になります。現場を一挙手一投足まで管理しようとすれば、現場は自発的に行動することを放棄します。当たり前です。かと言ってあまりに自由奔放では会社の信頼に関わるような失敗や不正が起きてしまう危険性があります。この硬さと柔らかさのバランスをいかにうまく取るかが組織運営の手腕と言えるでしょう。
権限の委譲と同時に責任を委譲することも忘れてはなりません。自由と責任が両方移譲されてはじめて自己組織化が実現できます。「学習型」の組織とは、中央集権に振れすぎた時には「自律化」するように、自律分散に行き過ぎた時には「有機化」するように自ら学習し軌道修正をするような組織です。
どうすりゃこんな組織ができるんだい、と思ってしまいそうですが、それはひとえに、組織のコミュニケーションを円滑化すること、そして組織内の信頼を構築すること、という点にかかっているでしょう。ここで言うコミュニケーションとはメールを導入する、とか、ケータイをiPhoneにすると言うようなITの話だけでなく、ミーティングのあり方を変えてみるとか、報告の仕組みを変えてみる、というような仕組みを見直すということも含めて考える必要があります。
ちなみに、みなさんの組織はどうでしょうか? 硬くてしなやかな組織ってのは、一体どんなもんなのか、それをすぐにみんなで話し合い、ブレインストーミングをできますか? これができる組織は、すでにいい感じでしなやかだと思います。ITが進化したことでコミュニケーションは手軽でスピーディになりましたが、意思の疎通には信頼関係の構築が不可欠です。そして信頼関係はITだけではどうにも強固にすることはできません。むしろ関係が弱まる危険性さえあるので、十分に気を付けましょう。
コミュニケーション、信頼関係、IT、管理手法、これらが一つに融合してはじめて、硬くてしなやかな組織が完成するのではないでしょうか。もっとも何度も打ち直し、鍛えなければならないと言う点も日本刀と同じですが。。。
文責:筏井哲治
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