演繹法と帰納法の違いを理解しよう!

ロジカルシンキング、二つのタイプ

ロジカルシンキングと一口にいってもタイプは大きく二つあります。

 

一つはソフトウェア開発で使われるような考え方、つまり大きなカタマリを少しずつ、もれなくダブりなく(MECE)分解していく考え方。もう一方は数学で登場するような有限の事象を複数組み合わせることで有限ではない(多くの場合無限)領域の振る舞いを証明するタイプの考え方ってことになります。

 

この最初の考え方を演繹法(えんえきほう)といいます。そして後者の方を帰納法(きのうほう)と言います。

 

 分析と説明で価値を発揮する演繹法

ロジカルシンキングはもちろん、ソフトウェア開発や数学の証明だけでなく、仕事において報告書やレポートを書く時にも、十分に活用できるものです。ちなみに、ロジカルシンキングではよくロジックツリーとか、なんとかフレームワークとか、なんちゃらマトリクスとか、そんな感じのものが多数登場してきます。

 

たとえば、僕が「戦略思考の教科書」で解説したマイケル・ポーター先生が考えた「5フォース分析」やリタ・マグレイス先生が考えた「アトリビュート分析」なんてのは本当に素晴らしいフレームワークで、これらは僕自身今もしょっちゅう活用しています。

 

とは言え、これらはすべて演繹法である点に気づかねばなりません。分析的、そして説明的な場合に演繹法は実に強力なツールになるのです。これはとても重要な点です。

 

ちなみに、報告書は結論から述べることが良しとされています。結論を書き、その過程を簡潔に追記しておくことが読み手にとって最もわかりやすい報告書になります。本の中では、報告書は「ヒト、モノ、カネ、時間」(演繹法)に分けて報告せよ、と書きました。

 

でも、営業やプレゼンテーションでは、少し事情が異なってきます。なぜならば営業の場合、ほとんど結論が決まっているからです。そう「今、10%引きのキャンペーンやってるんで、買ってください」、これが結論です。これを最初に言って、本当に買ってくれる人がいるならばラッキーです。

 

大抵の場合、別に今はいらねー、とか、興味ねー、とか、売り込みはお断り、って言われて終わります。

 

コミュニケーションで価値を発揮する帰納法

そこで登場するのが「帰納法」ってことになります。ロジカルシンキングと言えば演繹法というイメージがありますが、実は演繹法と同様にコミュニケーションにおいて重要なのが帰納法だったりします。実際のところ、やり手の営業マンやプレゼンター、とくにユーモアがあってスマートな人ってのは、この「帰納法」を駆使している場合が多いです。複数の事象を並列に並べることで、相手をある一定の結論に導きます。そして実はそれがミスリードになっていて、相手の期待を裏切る、そこで笑ったり、驚いたり、気づきを与えたりするわけですね。

 

<居酒屋にて>

事象1:上司:とりあえず生ビールで良いか?

事象2:平社員:いえ、私はちょっと、、、飲めないんで、、、

事象3:上司:そうか、ソフトドリンクもあるよな

 

ここで平社員の言葉「いえ、私飲めないんで」というのは「生ビールで良いか?」を受けての応えなので、当然ながら<俺の部下は酒ダメなんだな>って思うわけですね。そこで平社員が続けるわけです。

 

事象4:平社員:では、私は熱燗でお願いします

 

これがミスリードです。上司は心の中で『酒飲めねーのか。。。』とかなんとか思っていたところ、逆に『なんだよ、酒飲めるのか!ってか大好きじゃねーか』って感じで、一気に好感度が100倍になるわけですね。これはちょいと極端な例かもしれませんが、帰納法は優れたコミュニケーターが持つごく基本的なスキルです。

 

よくユーモアがある人は賢い、などと言われますが、これはあながち間違いじゃないってことですね。そして、重要なポイントは、これは決して飲み会スキルではなく、日々の商談においても使えるテクニックってことです。

 

<システム導入の商談にて>

事象1:Aという機能は最新の技術が詰め込まれている

事象2:B社はAが搭載されたシステムで1000万円かけて導入した

事象3:C社もA搭載されたシステムを導入しようとしている

事象4:私は今回Aよりもさらに高機能が搭載されたA’をお持ちしました

 

このような話をすると聞き手は、Aを導入するのに1000万だから、A’はさらにお高いんだろうと考えるはずですね。そこで、

 

結論:しかも価格はAよりも3割も安く、使い方はより簡単でシンプルなんです

結論’:今ならさらに10%の期間限定割引き中です

 

と言えば、予想を良い意味で裏切ることになり、え?どうゆこと?ちょっともう少し詳しい話を聞かせてくんない?って言われる可能性がグッと上がるでしょう。しかし、実際のビジネスの現場では、これとは全く逆の順で提案されることが多いわけです。

 

<ダメな順>

結論→事象4→事象3→事象2→事象1

 

これでは、相手の感情を揺さぶることはできないですよね。演繹法も帰納法も同じロジカルシンキングですが、こと商談の場にいおいては、今から自分はどちらのタイプを使ってコミュニケーションを取るのか、自分で自分の発言をしっかりとコントロールできていれば、商談をスムーズに進めることができるでしょう。

 

<良い順>

事象1→事象2→事象3→事象4→結論

 

なぜか日本では「報告は結論から言え!」みたいなつまらない理屈がまかり通り、つまらない報告書が溢れかえってます。しまいには、新製品などの提案まで「提案は結論からやれ!」みたいな感じになっちゃってるわけです。本当は提案やらプレゼンテーションってのは、もっともっと創造性があって良いものだと思っています。

 

帰納法を使うには勇気が必要である

 

あの営業マンの話はホント面白いわーって思ってもらえるようなプレゼンテーションは「提案は結論から」という既成概念に縛られている人には作ることは難しいと思います。まずは既成概念をぶっ壊しましょう。それができたら帰納法を駆使した面白いストーリーを作ってみましょう。何より大切なことは、これまでやったことのない新しいスタイルのプレゼンテーションにチャレンジする勇気かもしれませんね。

 

そして、このようなプレゼンテーションが出来た時に Prezi のようなプレゼンテーションツールの価値は100万倍になるのです。

 

論理的思考能力を鍛える

今やビジネスマンに常識となったロジカルシンキング

ロジカルシンキングという言葉が一般化し始めたのはたぶん2000年前後だったような気がします。僕がまだ青二才の学生さんだった頃で、マッキンゼーという世界で最も有名なコンサルティングファーム出身のバーバラ・ミントさんって人が書いた「考える技術・書く技術」という本によって一気に市民権を勝ち得たのではなかろうかと。わかんないけど。

MECE(ミーシー)なんて言葉が登場するのも、きっとそのあたりだったのではないでしょうか。たぶん。もちろん、僕個人としては、このロジカルシンキングって考え方は極めて重要で、かつ人間は思考する存在でありますから、全員がマスターすべき基本的なものだと思っています。できれば小学生くらいからロジカルシンキングのトレーニングを行うべきじゃないかと思ってます。

ロジカルシンキングは日本語でいうと論理的思考と言われてますが、その言葉の通り、元を探れば論理学って学問領域に入るのではないかと思います。ちなみにロジックの語源はロゴスです。そのロゴスを研究していたのはアリストテレスですから、さらに大きな領域で言えば論理学は哲学とも関係してきたりします。ロジカルシンキングというのは、決して最近のビジネス用語ではなく、大分昔から研究されていた学問なわけですね。

コンピュータを操るために絶対に必要な能力

文章の作成やプレゼンテーションの作成において、とても重要になるロジカルシンキングではありますが、これを鍛えるのは実際のところ、結構骨が折れます。戦略思考の教科書でも可能な限りロジカルシンキングについてわかりやすく解説しましたが、僕自身、これが鍛えられたのは間違いなくプログラミングを通じてです。プログラムは人が指示したコードの通りにしか動きません。正常な処理も、エラーも、バグもすべてコンピュータがロジック通りに動いた結果です。

現在ではプログラムを学習するサービスも多数出てきていますので、特に学生さんは将来プログラマになるならないに関わらず、論理的思考能力を鍛える上でプログラムを学習するのが良いのではないかと思います。知的生産業務に関わる上で、論理的思考をベースに仕事が出来る人と、それがない人では間違いなく大きな差がつくでしょう。それは報告書をひとつとっても言えることです。ロジカルシンキングを知っているのと、理解できているのと、当たり前のように使いこなすことは全く別物です。そして当たり前のように使いこなせるようになるには、実際に使う以外にないような気がします。筋トレと同じ。

ドットインストール

http://dotinstall.com/

コーディング道場

http://www.coding-doujo.jp/

Codecademy

http://www.codecademy.com/ja#!/exercises/0

当たり前の中に潜む矛盾に気づくこと

論理的思考能力が鍛えられてくると、現代のビジネススキルとして出回っているロジカルシンキングが実は少しばかり片手落ちであることにやがて気がつくことになるでしょう。それは実際に僕自身がIT業界に長らく身を置き、様々な業務を通じて感じたことです。例えば先日ポストした「PDCAは回らない」というのも、その一つです。一見ロジカルなように見えて、ロジックが通っていない、そのようなケースはビジネスの現場でよく見られるものです。そして、そのような矛盾を感じ取れるようになることが、本当にロジカルシンキングが身についた、と言えるのかもしれません。

このあたりについてはまた追々取り上げていこうと思います。