伊勢神宮と技術継承

 

伊勢神宮 内宮

先だって生まれてはじめて伊勢神宮にお参りに行って来ました。これまで神社といえば、近所か観光地かというくらいしか、あまり行ったことがなかったので、今回の伊勢神宮参拝は色々と日本を考える良いキッカケとなりました。

伊勢神宮は内宮(ないくう)と外宮(げぐう)に分かれて、それぞれに天照大御神(あまてらすおおみかみ)と豊受大御神(とようけのおおみかみ)という二柱の女神がお祀りされてます。日本の古神道のひとつの中心地であることに異論なく、古くからお伊勢参りとして日本人が生涯一度は目指した聖地でもあることは皆様ご存知通りでしょう。

そんな伊勢神宮の社殿が建築されたのは今から20年前の1993年です。はて、伊勢神宮が20年前に建造された?そう、私たちが伊勢神宮に出かけてお参りする社殿は20年前に作られたものだそうです。そして、今また新しい正殿が作られ、今年の秋(2013年10月)に天照大御神と豊受大御神の御神体は新しい社殿に遷御(せんぎょ)される予定になっています。

文化や宗教においては古いものほど価値があるように思われがちですが、伊勢神宮は常に社殿を清く(=新しく)保つことを良しとしてきました。20年一度、正殿のみならず、その他いくつもの社殿、倉、橋などすべての建造物が生まれ変わるのです。これが伊勢の「神宮式年遷宮(じんぐうしきねんせんぐう)」です。20年に一度建て替えるという文化が継承されて今年で62回、途中戦国時代などの中断を含めると、第一回式年遷宮が行われたのは持統天皇が統べていた飛鳥時代(690年)、実に今から1300年前です。大分昔からやっているお祭りですね。

どのような経緯と目的で20年ごとの式年遷宮が制定されたのかは諸説ありますが、様々な視点から見てみると、非常にうまくできた仕組みであることがわかります。もちろん、神道として神様を常若(とこわか)にお祀りするというのが、第一でしょう。しかし、日本的思想の真髄は、それらを生活や文化に溶け込ませることで、長く、強く生き残る点にあると個人的には思っています。

まぁ、私の推測ではありますが、一番大きな目的は宮大工という特殊な建築技術を長く継承することだったのではないかなと考えています。特に一世代20年と考えると、ますます20年での式年遷宮は技術継承を目的としたイベントなのではないかと思えてきます。1300年にわたって引き継がれてきたのは社殿そのものではなく社殿を作る技術です。結果的に私たちは持統天皇が生きた飛鳥時代と同じ伊勢神宮を目にすることができるのです。

もちろん大抵、宗教というものは永遠の美を目指すものです。西洋のキリスト教も良い例でしょう。地震が少ない当地の石の文化では、石で作られた頑丈な大伽藍によって永遠に続く美を表現しようとしました。逆に地震や台風など自然災害の多い日本で、私たちのご先祖様たちは、式年遷宮と言う方法で、こちらもまた永遠の美を保とうとしたのかもしれません。わかりませんが。結果的にそうなってます。

日本は北海道から沖縄までどこに行っても、神社があります。伊勢神宮や出雲大社に比べればもちろん小さなお宮さんです。しかし、これら全国津々浦々の神社がいつも美しく、清らかに保たれているのは、ひとつは伊勢神宮をはじめとしたいくつかの神社で、式年遷宮が守られているからではないかと思えるのです。式年遷宮があるから、日本にどのような文化や宗教が他国から流れ込んできても、飲み込まれることなく、むしろ良いところだけをうまく取り入れてさらなる文化的発展に役立てることができたのかもしれません。

明文化された教義や教典が存在しない神道だからこそ、宮大工は言葉ではなく、仕事を通じて神様への畏敬の念を持つことができたのではないでしょうか。そんな宮大工はきっと古くから日本人にとって最も誇り高い職業であったことは想像に難くありません。その宮大工が持ち得た思想こそが、私たち日本人に、労働は罰であり贖罪であるという考えではなく、働くことは神様との対話であり、崇高な行いである、という考えとして根付いたのかもしれません。

どれも憶測の域を出ませんが、ともかく生まれてはじめてのお伊勢様を見て、文化的、宗教的に優れているだけでなく、技術を継承するために文化に組み込んだ(ように見える)ロジックが非常に見事だなぁと思った次第です。

今年(2013年)は60年ぶりの出雲大社の式年遷宮も重なり、私たち日本人にとっては、浄化であり、生まれ変わりの年であり、新しいことを始めるに最高の年であると言えます。新しい正殿にお渡りになった神様たちが、きっと私たちの日々の頑張りを見守ってくださることでしょう。安心して色んなことにチャレンジしましょう。

伊勢神宮の木からセミのようにパワーを吸い取ってみる 0

制約があるからこそイノベーションは生まれる

イノベーションという言葉は今やビジネスの世界では完全に市民権を得と言えるでしょうか。ちょっと前まではイノベーションの日本語訳として「技術革新」が当てられていたため、どちらかと言うとサイエンス、特に技術的な発明や発見というイメージが強い言葉でもあります。

 

しかし、本来、イノベーションを経済学的な見地から定義したシュンペーター先生は「社会的意義のある変革」が「イノベーション」であって、既存の技術や仕組みであっても、それを再活用したり、これまでにない統合によって社会に変革をもたらすことができれば、それはイノベーションと言えるし、逆に画期的な発明であっても、それが社会に認知されることなく、誰にも知られないまま埋もれてしまえば、それはイノベーションとは言えないわけですね。

 

でもって、当たり前ですが、発明したテクノロジーや、新しいサービスがすべてイノベーションを起こすことなんてできっこありません。もちろん、分析や調査、試行錯誤を繰り返して、なるべくその確率を上げていくという取り組みは必要ですが、それ以上に重要なのは、イノベーションの種となるアイデアの数の方でしょう。アイデアの数が少ない企業で、イノベーションを起こせた会社はきっと存在しないはずです。

 

アイデアはとても大切だし、それは多くの人が理解していることでしょう。どうすればアイデアがたくさん出てくるのでしょうか。本屋さんに行けば、発想力を鍛える、だとか、アイデアが出てくる会議の方法、みたいな本がたくさんあると思います。もちろん、このような本から得る知識はとても重要で、先人が生み出した効率的な手法を身につけることで、同じ苦労や遠回りをせずに済むのは間違いありません。

 

多くの企業が、どうすればもっとたくさんのアイデアが社内から出てくるか、そしてそれを製品やサービスに組み込んでいけるか、日々考えているはずです。そのために「アイデアを出すトレーニング」をしているようではきっとアイデアはなかなか出てこないでしょう。

 

実はアイデアというのは「制約」に大きく依存します。制約があるからこそ、様々な知恵を使って人はそれを乗り越え、より良い社会を作ることができるのです。しかし、一口に制約といっても「善玉制約」と「悪玉制約」があります。善玉制約とは、乗り越えることが可能で、また乗り越えた先には新しい発展や美があるものです。逆に悪玉制約は人のモチベーションを下げ、努力することを無意味に思わせる制約です。

 

善玉制約の代表例は気候でしょう。気候は人がどう頑張ってもコントロールできない制約要素です。特に日本のように夏は熱射病になるほど暑く、冬は極寒、1年を通じて過ごしやすい日の方が少ない国は何をやるにも制約だらけです。特に近代以前は、気候が与えた影響は大きいはずです。農業も工業も商業もすべて気候に依存します。種を蒔く時期から刈り取りの時期、家の修繕や着物の直しまで、限られた期間に必ずやらないといけませんでした。できなければ死ぬわけです。

 

私たちのご先祖様は、厳しい自然条件の中、あらゆる知恵を絞って、家を守り、子孫を繁栄に導いてくれたのです。じっくりと調べてみれば、日本人の衣食住が実に広く深く自然環境や気候条件に大きく依存していることがわかるでしょう。それを乗り越えるために、現在となっては伝統文化や伝統技術と呼ばれる日本固有の風習が北から南まで数えきれないほど生まれたり、乗り越える過程で、日本人独特の美意識が芽生えてきたりしたわけですね。制約による多様性の開花の最高の例が、我らが日本と言えるでしょう。

 

それに対して「悪玉制約」は未来の可能性よりもリスクで脅すような制約です。例としては「出したアイデアは売上責任を負う事」とか「会社として新規投資の凍結」とか「昇格にはTOEIC700点以上必要」とか、そんな感じのものです。日本国内では、ここ20年ほど「規制緩和」という言葉が政府や企業でやたらと頻繁に使われているようですが、その実、悪玉制約が増えているのも事実です。

 

この政府による悪玉制約の増大にIT企業が加担してきたことも、かつてIT企業に身をおいていた私としては、今となってはとても心苦しく思います。その悪玉制約を表す代表的な用語が「コンプライアンス」です。その次に「ガバナンス」「プライバシー」「標準化」と続きます。言葉だけ聞いてもいったい何をすれば良くて、何をしてはダメなのか、さっぱりわからないこれらの言葉によって、多くの日本企業は手足を自縛したまま、何年も停滞しているように見えます。

 

悪玉制約は増えれば増えるほど、努力してもしなくても同じ、アイデアは出すだけ無駄という思考が働くようになり、結果的には組織全体が沈み、究極的には国全体が沈んでいくことになるでしょう。

 

世界から見れば、日本という国が持つ力はこんなものではないはずなのに、どうしていまだに浮揚できずにいるのか、不思議で仕方ないのかもしれませんが、日本国内にいる私たちからすれば、これら目に見えない様々な悪玉制約や、これまで築いてきた既存資産、既存サービス部門が持つ既得権、長らく続く採用抑制による人材育成の断絶、その他様々な条件が重なることで組織内の空気が、わくわくするようなアイデアの実践や、既存の仕組みを変革するような取り組みを阻んでいるのを感じます。

 

政府も企業の経営も、発展の鍵、そしてイノベーション創出の鍵は「制約をコントロール」することにあります。すなわち善玉制約を増やして、多様なアイデアが生まれる土壌を作ること、そして悪玉制約を減らして、人が未知の領域に踏み出す勇気を与えること、この2つがリーダーに求められる最も重要な能力であり、責務であると言えるでしょう。

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